2012年1月21日土曜日

「太陽がいっぱい」に見る戦後イタリア


アランドロンの出世作「太陽がいっぱい」。1960年度のフランス・イタリア合作映画です。
この映画を久しぶりにDVDで見ました。1935年生まれのアランドロンはこの時25歳。精悍な表情で完全犯罪を進める若者。この突き刺すようで寂しげな眼の演技が、彼の人気の根源だったのではないでしょうか?

さてストーリーは、グリーンフィールドという大富豪の息子フィリップを親父の頼みで連れ戻しに来たトム・リプレーが、放蕩を続けるフィリップを地中海上のヨットで殺し、フィリップに成りすまして富と恋人を横取りしようとするもの。
舞台はイタリアの気だるく美しい地方都市。美しい背景の中で繰り広げられる完全犯罪のドラマ・・・
パトリシア・ハイスミスの小説「才人リプレイ君」を元にしたものです。
巨匠、ルネ・クレマンはこの映画の中で何が言いたかったのでしょうか?

1960年と言えば第二次世界大戦が終わって15年目。戦後処理も終わって欧州は復興期にありました。
完膚なきまでに叩きのめされた日本とドイツ。しかしイタリアは降伏(寝返り)が早かったせいか(1943年)、また国内いたるところに歴史的建造物があったためか、ひどい破壊は免れました。
そして国民が戦争に反対してムッソリーニ氏を殺してしまったことから、日本やドイツのような終戦時裁判も開かれず、戦後を迎えます。

このことは、日本やドイツのようにそれまでの体制(固定された貧富差)が破壊されずに残り、即ち富の移動が発生しなかったことになります。
貴族階級が生き残って、貧富差が継続されてしまったわけです。そこに鋭くメスを入れたルネ・クレマン監督。ニーノ・ロータの名主題曲とともに、インサートショットの映像を良く見ていると、その社会矛盾が上手に表現されて行きます。

映画の冒頭、フィリップが富豪の友人と合って話をするシーンで、その富豪がトムに「何をして食っている?」と聞きます。答えられないトムは逆に「お前は何をして食っている?」と聞き返すと、「俺たちは金利で食える」と言う答えが返ってきます。
ここがルネ・クレマン監督の最も言いたかったことかも知れません。そして放蕩にふける2人の若者を見ている港の老漁師が「不良どもめ!」とはき捨てるように言うシーン。
せっせと働く小太りの中年のおばさん達の活発な生活力が、巧みな演出で好感を持って描かれています。
注意しないと共産主義者のレッテルを貼られてしまう時代。しかしルネ・クレマン氏は実に注意深くこの作品を仕上げておりました。

ドイツ以外の欧州は、こうして古い体制を維持し始めます。ソビエト共産主義があったおかげで、自由・資本主義体制ということで、資本家の欧州は生きていくわけです。それでも金利で食っている階級は次第に「技術革新で生産性を向上させていく」ドイツや日本に押されて行きます。

その結果が21世紀になって表出し、いくらユーロなどを作っても破綻してしまうわけですね。(この欧州の体制をアメリカは嫌悪していたということ。だからサブプライムローンは、アメリカが欧州に仕掛けた罠だったという人も居ります)

昨今、ついに破綻したイタリア経済ですが、ベルルスコーニ首相が追放されて、変わって登場した学者政治家マリオ・モンティ氏が政権を作りました。
そしてこの冬、イタリアのスキー場で面白い光景が見られるそうです。高級車に乗って訪れる富豪達に対して、スキー場で待ち伏せるイタリア国税局の面々。高級車から降りる富豪を捕まえては脱税を告知、滞納している税金を取り立てているそうです。

そしてこの時の大儀の台詞が、「あなたがたは、孫にイタリアを残したくないのですか!」だそうで、これを言われると富豪は反論できなくなるそうですね。

イタリアには活発な零細企業があります。独特のデザイン、そしてその色使いは、世界中の憧れです。
そこが活性化して、富豪達の国内投資が息を吹き返せば、もしかしたらイタリアは欧州で一番はやく立ち直る国家となるかも知れませんよ・・・

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