2016年11月9日水曜日

成長できない時代なのか?

産経に京都大学名誉教授の佐伯啓思氏の講演録が出ておりました。タイトルは「大転換の時代」。

要約しますと、「もはや経済成長はしないから、それを基本に社会を考えて行かないといけない」という事です。
巨大な市場と安い労働力を求めて始まったのがグルーバル経済でしたが、もはや破綻しております。そして巨大な市場を求めても、地球は有限であり、それ以上の成長は無いわけです。
また、我々の生活も必要なものはそれほど多くは無いもので、結局巨大化はそこで行き詰るわけですね。

英国がEUを離脱しましたが、問題はEUの方にあるのであって、英国には無いという見方です。
佐伯教授は、1973年に発行された「エルンスト・フリードリッヒ・シューマッハー」の「スモールイズビューティフル」という著作を取り上げて、この本は「人間復興の経済学」だと述べております。

シューマッハー氏は英国の経済学者です。産業革命以後、なぜか英国は先行して社会を変化させていきます。ですから要注意なのですね、良いにつけ悪いにつけ・・・
経済学の書物としては異例の200万部ぐらい売れたというフランスの経済学者、トマ・ピケティ氏の著作、「21世紀の資本」も例に挙げながら、佐伯教授は「(グローバル化が)このままいくと昔のヨーロッパの貴族階級と労働者階級ぐらいの格差になる」と述べ、ピケティ氏が述べた大事なことは、今は経済成長ができる時代ではなくなったということだ・・と語っております。

また、佐伯教授はAIやIT産業にも懐疑的です。「第4次産業革命」などは意味が無いと語ります。
つまり生産性を上げてGDPを大きくし、そしてグローバルマーケットで活躍することがいかにいいことか・・などという話になっているが、それは間違っていると言うのです。
「スモールイズビューティフル」は、人間というのは大きなスケールで生きるのではなくて、もっと小さなところで生きられるものなのだ・・ということで、もっとスケールダウンしていくべきだと言っているわけです。

そしてIT技術について、「IT産業に金を振り向けて大きな利益を生み出すのではなくて、われわれの生活の質を高め、教育水準を高め、人間関係を豊かにしていく。そういう中でITやAIやロボットを使うことを考えるべきです。」と述べ、社会学や人文科学の根本的な問いであり、「これは非常に哲学的な問題です」と締めくくっております。

現在の経済社会は産業革命以来、その延長線上にあります。産業革命を起こしたのは蒸気機関が発明され、織機の自動化に成功したところから始まります。
英国貴族は競って資本を出し合い、繊維産業に投資しました。大量の綿花が必要となり、その調達でインドの過酷な植民地支配とか、アメリカへの奴隷の輸出などを行い大英帝国の繁栄を築きました。他の欧州諸国もそれに倣い、ドイツだけが遅れを取りました。

こうして欧州で始まった産業主義は、貴族同士の資本の競争で、国際的には資源と市場を求める争いとなり、やがて内燃機関が発明され電気技術が発展し始めて武器も相当に発展します。
産業化を進める国家、アメリカと日本は南北戦争、明治維新と内戦を戦い産業化のための国家基盤を確立します。
ドイツも欧州で産業化を進めますが、第一次世界大戦によってそれを阻止されます。ドイツの職人気質がそれに反発し、ヒットラーによって第二次世界大戦となったわけです。

第二次世界大戦のあと、軍事技術が民生品に転嫁され産業化が大きく進みますが、それは資本集約と利益追求と配当という金融の世界が進む土壌でもありました。
共産主義は民間金融(俗にいうユダヤ資本)に反発して国家資本の立場を取ります。産業は大型化し、自動車産業などが国家経済を左右するようになっていきました。

こうして人間の生活は産業化社会に取り込まれ、それまでの家族システムが破壊され、核家族システムが常識のようになっていったわけです。
「家族システム」とは、その家族の中に経済主体があるシステムです。例えば古い農家や、職人の集まりなどがそうでした。

物の再生産(ステレオタイプの生産)が大型化する工場によってなされ、コスト意識が出てくると単位時間当たりの生産数量がコストを下げる条件となり、工場はさらに大型化され、大量の商品を売るための営業活動(テレビコマーシャルなど)も活発になってきたわけです。
家族内にあった経済主体は崩壊し、経済主体が企業など家族外にある核家族システムが一般的となってしまったわけです。
ある意味で、これが少子化問題と高齢化問題の根本だと思います。またこれからは、先進国の貧困問題となって主権国家の国民を苦しめ始めるでしょう。

しかし現在は、作られる製品も複雑化し、コンピューターが民生品となり、小型化が進み、今はスマートフォンと言われるポケットに入り個人が操作する小さな装置にまで発展してきました。コンピュータ間通信もインターネットで可能になり、やっとここで巨大化する産業システムにブレーキがかかり始めました。

シューマッハー氏も佐伯氏も、述べていることは昔の家族システムに戻したほうが良いという考え方のようです。ですから「成長はもうしない」として、牧歌的幸福追求をビジョンとしているのではないでしょうか。ですからIT技術やAIには冷淡です。

古い家族システムは牧歌的ではありますが欠陥も大きいものがあります。血縁が組織を左右しますから排他的となり、家族間の闘争も発生しました。

今後はIT技術などが、この古い家族システムの欠陥を補って行くのではないでしょうか。そして産業も、大規模でないと出来ないものと小規模で多様性になじむものとに分かれていくでしょう。やがて大規模なものは社会主義的なシステム(需要追従型工場)となっていくのではないでしょうか。

大きな個人的利益は小規模な企業にあるという現象が出てくるように思います。そうなって初めて再び成長する人間社会が生まれるような、そんな気がしますけど・・・

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