2016年10月7日金曜日

モニカ・チャンソリア氏の日中分析

インドの研究者で安全保障関係のエキスパートであるモニカ・チャンソリア女史が、今年9月、尖閣諸島問題と日中関係に焦点をあてた本を上梓しました。

女史はインド陸軍のシンクタンク、陸上戦闘研究センターに所属する上級研究員です。
日中の関係者以外で、初めて東シナ海と日中関係について分析された本が出版されたのは初めてのこと。

チャンソリア氏は「この16年間、中共や人民解放軍、アジアの安全保障問題の研究を専門的にやってきた。その流れで尖閣問題に関心を持つようになったことは自然なことだった」と述べ、「アジア地域の安全保障を語る上で尖閣諸島を含む東シナ海の重要性が増している」と、自身の研究が中立であると述べました。

チャンソリア氏は、日米中台の文献などを調べるとともに、学者や研究者などへのインタビューを重ねて、さらに東シナ海をめぐる日中の対立の中核となっている「尖閣諸島」について法的側面や経済的要因などを分析するとともに、日中関係についてもこれまでの両国関係の経緯をたどり、米国と同盟関係にある日本と、日米同盟に対抗する中共との関係にも注目して多方面からの検証も行ったそうです。

そしてその結果、日本から見るとあまりにも当然な結果が出たわけです。すなわち「中共の主張には一貫性がない」という明快な結論です。

この本では、「尖閣諸島の領有権を中共が声高に主張し始めたのは、1969年に国連アジア極東経済委員会(ECAFE)が経済鉱物資源調査の結果として同海域に石油埋蔵の可能性があると発表してからだった」と、中共の主張の不自然さを訴えます。

そして、日本の主張に対しては「一貫性があるだけでなく、主張を裏付ける文書の存在もきちんと確認されている」と指摘、中共の「嘘」を暴きます。

そして「中共の最近の行動はこれまでにないことばかりだ」と分析したうえで、「中共は日本の自衛隊の手足を縛る平和憲法の存在をよくわかっていて、利用している」として「中共は戦い方を熟知している。潜在的な敵と対峙するときは、能力が劣って、弱い立場からではいけない。交渉は同格な立場にあってこそ可能になることをわかっている」と、中共の対日行動を示し、「中共は、日本が自分たちよりも劣勢にあるとみて挑発行為を続けている」と分析しています。

さらに女史は、日本がその中共に立ち向かうにはどうしたらいいかを示唆します。先ず「新日米防衛協力指針(ガイドライン)」を評価したうえで、「日本が東アジア地域の安全保障で積極的な役割を担わなければ、中共が強硬さを増すだけだ」と日本が責任を果たすことを求めます。
中共のふるまいについて、「中共は国際社会で責任あるステークホルダーと自称する。それなのに国際的手続きや法律、体制を完全に無視する。そんな国がどうやって国際的なルールや体制づくりに関与できるのか」と厳しく批判しています。

そして「大金を投じて対日プロパガンダを展開する中共に対し、日本は国際的な宣伝戦で後れを取っている」と述べ、日本側ももっとお金を使うべきだとの認識を示しています。
最近の傾向については、「南シナ海をめぐる中共の傍若無人な対応のおかげで、国際社会では東シナ海に関する日本の主張が徐々に浸透しつつある」と述べながらも、「それでも東シナ海についてはまだまだ。東シナ海の地理的な遠さと、中共との経済関係を重視するがゆえに、日本の主張に距離を置く国も少なくない。」と、日本も経済関係をもっと積極的に進めるように注文を付けました。

その上で、「インド側には日本との関係強化への期待が相当強いし、日本の技術力などは途上国であるインドの成長には必要だ」として、印中間の係争地で、インドが実効支配するインド北東部のアルナチャルプラデシュ州の開発支援を呼びかけています。

南シナ海については、その領有権問題で仲裁裁判所が7月に出した判定を「紙屑」とした中共が、「すでに設置した施設を撤去するだろうか。答えは『ゼロ』だ」と述べ、「中共は今後も南シナ海に居座り続ける」と見通しています。

仲裁裁判所が判定を出す直前、南シナ海で中共は100隻の軍艦を動員して実弾演習をしました。周辺の国家に対し「南シナ海は中共の海だ。文句あるか!」という恫喝です。

そしてこの恫喝を無視した仲裁裁判所の判定を「紙屑」とした中共は、その3日後にウランバートルで開かれたASEANで、国際法尊守を迫る安倍首相に対して、李国教首相が「口出しするな!」と恫喝しました。
これらの振る舞いによって、中共の「ならず者国家」というイメージが強くなったわけです。

この恫喝ですっかりビビったのは「ラオス」「カンボジア」「タイ」「ブルネイ王国」「マレーシア」「シンガポール」でした。
安倍首相が、この「ならず者」の恫喝で引き下がざるを得なかったのは、これらの国が経済的に中共頼みの国であったからではないでしょうか。

中共はこうしてベトナムとフィリピンをASEAN内部で孤立させ、その上で登場したばかりのフィリピン・ドゥテルテ大統領にターゲットを絞り、マニラの華僑を動かして懐柔していったようです。

モニカ・チャンソリア女史が言うのは、このような中共の恫喝でビビる国家は経済関係が中共に握られているからで、日本はそれに経済的に対抗すべきだと言うのでしょう。
しかしこれらの国の経済支配は華僑ネットワークに握られているために、そう一筋縄では行きません。

では、華僑がどうして中共政府に従うのか・・・どうやら「公(おおやけ)」を認識できない華人の特質から来ているのではないでしょうか。
公共の場で破廉恥な行為を平然と行う華人。そこを蔑視される華人の自尊心のよりどころが、同じ価値観(ならず者国家)の中共政府と言うわけです。まあ、中共政府もそこを上手く使うのでしょうけど。

さて、チャンソリア氏の指摘はどれも至極真っ当なものばかりです。しかし華人からは「日本寄りだ」と言われるでしょうね。女史はあくまでも「中立な立場で臨んだ」として、そこが「この本のセースルポイントだ」と笑います。

ともかく第三国の人が見た「日中関係と尖閣諸島問題」という英語の本ですから、世界中で広く読んでもらいたいものですね。
原題「China,Japan and Senkaku Islands」

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