安倍首相は、先のインドネシアのバリ島で開催されたアジア太平洋協力会議(APEC)の域内最高経営者サミットで、「改革は、待ったなし。岩盤のように固まった規制を打ち破るには、強力なドリルと強い刃が必要だ。自分はその『ドリルの刃』になる」と規制改革への強い姿勢を見せました。
それ以降、安倍首相は「成長戦略」と称して、この「岩盤破壊」をあちこちで発言しています。
そしてその目玉は、何といっても農業改革。農業改革と言うと、すぐに「TPPの早期妥結」などが頭に浮かびますが、本質はそこにあるのではなく、あくまでも日本の農業の将来を考えてのことだと思います。
農協法を改正し、全国農業協同組合中央会(JA全中)が全国のJA組織から賦課金(約77億円/年・非課税)を集めるシステムの廃止をしようとする安倍政権なのです。
これによってJA全中の資金を抑制して、解散に持っていこうとする安倍政権の目論見のようですが、「(中央会制度は)自律的な任意の制度に移行する」という表現をもって提案がなされます。
ここにJA全中の万歳章会長がクレームを付けます。「その表現の中から『任意の』という部分を削れ」と抵抗してきました。
「(中央会制度は)自律的な制度に移行する」ということで、JA全中という制度を維持しようとする会長の最後の要望でした。
万歳会長は「改革案はJA自らが決めたい」と譲らず、結局「任意」は削除されてしまいました。
「(全中創設以来)60年間、改革を述べた首相は1人もいなかった。今までのような法定の中央会を廃止していくということははっきりしている。私は必ずやり遂げる」・・そう言って挑んでいる安倍首相です。
一方の万歳章会長は、JA次期会長選に向けた所信説明会で「中央会制度は農協法で明確に位置づけられるべきだ」と現状維持を訴え、安倍政権と対決の姿勢を見せております。
安倍首相の思いは、「農家のためのJA」が「JAのための農家」に変質したというものです。
農業就業者の平均年齢は、平成25年調べで66・2歳でした。高齢化が進み、耕作放棄地は滋賀県とほぼ同じ面積の40万ヘクタール(22年)に拡大し、このままだと日本の農業はあと10年を待たずして崩壊してしまうと言う現実があります。
JAの本来の役割は「農家の所得向上」だったはずです。しかし、最近のJAは共済など金融事業を重視する姿勢が目ち、JAバンクが有する93兆円を元にして日本最大級の機関投資家として株式市場を動かしている状態です。
守るべき農家からは、「JAよりホームセンターで肥料を買った方が安い」などと言われる始末。このJAに切り込んだのが安倍政権だったわけですね。
「岩盤」に切り込もうとする安倍と組織温存を狙う全中との攻防は激しさを増すばかりだそうです。しかし安倍首相は後に引く気はないようです。
TPPも、日本の農産物を他国へ輸出することが目的。ようするに日本の農業が儲かる体質にならなければ、農業をい引き受ける若者は一人もいなくなる・・・そこがTPP交渉への参加だったようですから。
TPPはまだ交渉継続のようです。苛つくアメリカなどからは「日本をはずせ!」などという声も聞こえてきますから、まだ大丈夫のようですね。
日本のマスコミなどには、安倍政権がTPP交渉に妥協し続けているような記事が時々出ますが、本当なのか、それともサヨクの安倍政権潰しの印象操作なのか、良く判りません。
安倍政権がTPPの早期妥結を各国に行くたびに語っておられることは周知の事実です。日本の農産物を売り込み、国内農業の活性化、即ち「儲かる農業」にしようと必死なのかも知れませんね。
これに対して、保守系の中に、TPPに反対し「JA全中」を擁護する動きもあります。「戦後、農協破綻が1件もなかったのは農協法に基づき全中が厳しく(地域の農協を)監査したからだ」ということを掲げていますが、戦後レジームからの脱却とは、まさにこのようなことから派生した既得権益の廃棄なのです。
これが時代の変化というものでしょう。ある一時期、その主張が正当性を持っていたとして、ゆえに社会が変化してきた時、今度はその正当性がなくなって邪魔になってしまうわけです。
JA全中だけでは無いでしょう。正当性ある主張が組織を伴って社会改革を成し遂げた時、今度は正当性がなくなり社会に害毒を撒き始める・・ということ。
ソビエト連邦がそうだったような気がします。共産主義革命の正当性は、革命が成功したとたんに正当性を失ったはずです。しかしそれを潰すことが出来ずに、既得権が特権階級になって、やがて国家そのものが崩壊してしまったと言うことです。
崩壊できたソビエトは近代国家ですが、崩壊出来ない中共はいまだ「野蛮国」の域から出られないでいます。
このように既得権の破壊はきわめて難しい問題で、しかも破壊出来ないと国家が崩壊する事態にもなっていくということ、お解りでしょうか。
JA全中が無くなっても、次の正当性が既得権を作り上げていくでしょう。それをぶち壊すのは、また「次の世代」の仕事ということになります。
安倍政権を見て、次世代の若者は「既得権潰し」をどうやるべきか、良く学んで欲しいですね。現在は正当性を持って、社会を良くしているものも、そうして社会が良くなっていったとき、こんどは正当性を失って害毒となるわけで、そこをいかに潰すか、そういう事例として学ぶわけです。
既得権圧力団体と、民主制度の中の政治家の戦いは、宿命的に続くのですから・・・
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