2019年3月13日水曜日

ライトハイザーという男

産経に「トランプ大統領を説得する米貿易戦士」という記事が出ておりました。ロバート・ライトハイザー通商代表とトランプ大統領との食い違う考えを危惧した湯浅博氏のコラムです。

ロバート・ライトハイザー通商代表は、ロナルド・レーガン政権下でアメリカ合衆国通商部次席代表を務め、日米貿易摩擦で日本に鉄鋼の輸出自主規制を受け入れさせたというつわものです。
この時、日本の提案書を紙飛行機に折って投げ返したという逸話が残っているそうです。

30年近く反補助金や反ダンピング関連の訴訟を弁護士として担当した経歴を持ち、ピーター・ナヴァロ氏と同様に、中共の貿易慣行を不公正だと批判してきた人物です。
日本に対して行った半導体や自動車の輸入規制を中共にも適用すべきだと主張しております。

クリントン政権が中共のWTO(世界貿易機関)加盟を認めたとき、それに強硬に反対したライトハイザー氏は、この時「(中共が)加盟しても貿易ルールは守らず、貿易不均衡は拡大し、対中貿易の赤字が『壊滅的になる』」と述べております。
これが的中したことは、その後の中共のふるまいを見れば明らかです。

1947年生まれで現在は71歳。
2月下旬の米議会公聴会で米中貿易戦争の意義を「これが1度限りのチャンス」と語り、「短期的に米経済を犠牲にしても、狼藉を働く中共の「構造改革」を実現させなければ、国際社会は取り返しのつかないことになる」という主張を持っております。

先日来日したスティーブ・バノン氏は、「これは大豆の大量買い付けなどで終わる話ではない」と述べておりましたが、ライトハイザー氏も公聴会で、「大豆の解決策を求めてはならない」と、目先の利益に飛びつかないよう、トランプ大統領にくぎを刺しました。そうしたら途端に株価が急落してしまったそうですが。

このことから、トランプ大統領とライトハイザー代表の間に確執が生じているとの見方が浮上しています。
トランプ大統領は「貿易戦争」の幕引きを図る意欲をみせているからです。2020年大統領選で再選を目指すトランプ大統領が厳しい対中政策を「転換させた」という噂(マスメディアによるもの?)が広がっているからでしょう。

中共がアメリカ産の大豆を大量に購入することは、中西部の集票に頼るトランプ氏にとってはのどから手が出るほど欲しい条件です。
トランプ大統領は通商交渉で結ぶ「覚書」を「法的拘束力のある貿易協定ではない」などと述べておりますが、ライトハイザー代表は法的拘束力があることを前提に「大がかりで構造的で、かつ実行可能な協定のみ受け入れる」と述べています。

ですから「ライトハイザー氏は辞任する」という噂までがワシントンを駆け巡っているとか。もちろんこのことは中共にとっては望むところでしょうし、またこの噂の裏には習政権の毒が回っているようにも感じます。

習政権としては一日も早く通商協議をまとめたいところ。中共が強硬策を引っ込めて「戦術的後退」にかじを切ったのは、昨年暮れのことでした。
アメリカとは対抗せず、冷戦を戦わず、歩みに即して開放し、核心的利益は譲らない、との戦略が立てられました。

譲歩するにしても、ライトハイザー代表の迫る「経済モデルの改革」に対しては「核心的利益は譲れない」として、何としてもトランプ大統領に「大豆で懐柔」を図ろうということのようです。
トランプ政権からライトハイザー氏が通商代表を辞めることになれば、一番喜ぶのが習近平主席と言うわけです。

ライトハイザー代表の言う「大がかりで構造的で、かつ実行可能な協定」とは、「知的財産権侵害」とか「為替操作問題」「資金移動規制問題」などで、いずれも中共の核心的利益を疎外するものです。
トランプ大統領を騙すことで、ライトハイザー氏を政権から排除する戦略が巧みに立てられているであろうことは、ちょっと考えれば誰でも予想出来ること。

ライトハイザー氏を追い出し、習近平国家主席から大幅譲歩を引き出し、「アメリカは勝利した」と宣言することで来年の大統領選挙を有利にするというトランプ大統領の考えであったら、有権者はむしろトランプ大統領から離れてしまうのではないでしょうか。
なぜなら、その後中共は「核心的利益」の奪取に向けてより活発に狼藉を働き始めるでしょうから。

すでに共和党だけでなく民主党も対中強硬論になっていることを、忘れないでほしいですね。
このようなアメリカの意思が、ライトハイザー代表の強硬発言になっているとも受け取れますね。

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