2019年2月5日火曜日

ブレグジット・合意なき離脱

欧州連合(EU)離脱協定案が英国議会で否決されてしまった最大の理由は、アイルランド問題です。
アイルランドは、現在、北アイルランドと南側のアイルランドに分離されています。
北アイルランドは英連邦の一部であり、南側のアイルランドは独立国です。北アイルランドでは英国統治の継続を求める人々と、アイルランドとの併合を望む人々の間で紛争が頻発し、テロ事件なども起きてなかなか収まりませんでした。
その背景にはカトリック系キリスト教徒とプロテスタント系キリスト教徒の対立があったわけです。

長い紛争は1998年に英国のブレア首相とアイルランドのマハーン首相による平和合意で一旦は収まりました、
それでもIRA(アイルランド共和軍)は武装を解かず、カトリックとプロテスタントの連立政権を認めず、ゆえに北アイルランドの自治が確立しませんでした。

2005年になってIRAはようやく武装を解除し、2007年になってプロテスタント系の民族統一党の党首が首相に着き、カトリック系のシン・フェイン党から副首相を出して自治が成立したのです。

しかし2009年3月には「真のIRA」なる組織がイギリス軍兵士や民間人を6名殺傷する事件も起きて、まだ不安定な要素を抱えた場所となっています。

ここしばらくは、北アイルランドとアイルランドの国境を、紛争を防ぐための「開かれた国境」として運営してきて、紛争は収まっていました。

この微妙な国境が、今度のブレグジットで検問所や通関など物理的な分断を示すものが出来てしまうわけです。なぜならアイルランドがEUに残るからです。

再び国境での紛争が起きることを懸念したメイ首相は、EUとの間で「検問所などを設けず、人やモノが自由に往来する現状を維持する方針」で一致したのです。
しかしこの案は、国境紛争が起きないような安全策として取られたものが、英国全体が事実上、関税同盟に残り、北アイルランドはEU単一市場の一部ルールがさらに適用されることになるのです。
少なくとも英国のEU離脱強硬派にはそう受け取られました。

そしてこの処置は「一時的なもの」と明記されましたが、具体的な期限は明記されておらず、終了時期は英国とEUの双方で決めることになっていたのです。

こうしてメイ首相とEUとの間で決められた離脱協定案は、英国議会のEU残留派とEU離脱強硬派の両方から「ノー」を突きつけられてしまったわけです。

しかし英国民の間には、期限の明記や英側が一方的に終了時期を決められる仕組みを求める声が出てきました。
このままでは「合意なき離脱」になってしまうからでしょう。

そこでメイ首相は、もう一度EUとの協議を行いたい旨を打診しました。しかしEU側はこれを断ります。
EU側には、英国のEU離脱がうまく行けば他の国も離脱を言い始めるかも知れないという危機感があったからです。
事実、フランスの「国民同盟」などもEU離脱を引っ込めてしまいました。

EUのトゥスク大統領は、現行の離脱案が「最善かつ唯一、秩序だった離脱を保証する手段」と強調して、英国との再交渉を拒否しております。
しかし英国内では、メイ首相の離脱案で唯一障害となっている条項の一部変更を求める議員提案を16票差で可決し、EU側に離脱合意案の再交渉を要請するメイ首相の方針を議会が支持し、足並みをそろえる格好となっているそうです。

ここで離脱の焦点は、「終了時期は英国とEUの双方で決める」と言う部分を「英側が一方的に終了時期を決める」というように変えられるかどうかということに絞られてきたようです。

当事者であるアイルランド政府も離脱協定の再交渉を受け入れない意向(EU側と同じ)を表明していますし、フランス大統領府も受け入れない意向を示しました。

離脱期日は3月29日です。このままですと「合意なき離脱」になってしまいます。
合意なき離脱となれば、物流寸断などで生活必需品が欠乏し、市民生活が混乱することも懸念されています。
暴動などの不測の事態も予測され、エリザベス女王ら王室関係者をロンドンから安全な場所へ避難させる秘密の計画を進めているとの報道もあるようです。

EUというグローバリズムの理想が起こす大混乱と生命の危機。「世界は一つ」などという妄想は、現実の前で常に我々国民を苦しめるのです。

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