大震災のおかげで、すっかり影が薄くなってしまった「尖閣列島問題」。
その中共の漁船が海保の船に体当たりしている映像をYouTubeに公開した元海保保安官の一色正春氏が書き下ろした本「何かのために」です。
震災前にアマゾンで注文していたもので、震災のおかげですっかり忘れていたところ、3週間を経て宅配で届きました。
さっそく読んでみると、なかなか面白く書かれています。一気に読んでしまいました。
その感想ですが、第一印象として、彼は「サムライ」的であると感じたことです。
本の内容は、まずこのビデオを公開するときに考えたさまざまな葛藤、そして公開後に起きたことと、拘留されつらい調査を受けたこと。そして最後に日本国民に対する希望を述べておられること。このような構成になっておりました。
公開前の葛藤とは、もし公開すれば海保の仲間を始め船長など多くの人たちに迷惑がかかるということと、自分の職がなくなり家族が路頭に迷うこと、などが頭に浮かび苦悶したことが掛かれていました。そしてその葛藤の末に、最後は公務員という立場は国民のために働くのであって、海保という組織や上司のためではないということに気が付いたということです。
そして、このビデオを公開することで、何も知らされないよりも知った方が国民のためになるし、同じく何も知らされない中共の国民の為にもなるという信念があったということです。
結果的には、公開した後の今でも、自分のしたことが正しかったのかそうでないのかは判らないとしています。
ただしあの時は、公開できる立場にあって自分の正義感に反して公開しなければ一生後悔するし、息子に対する裏切りになるとも感じられたそうです。もちろんそれは将来の日本に対する裏切りという意味でしょうね。
約10年の海保の仕事で、中共の駆け引きをいやというほど見てきた彼は、その都度「謝罪と保証」を繰り返す日本政府と、何も知らされず日中友好などという言葉にごまかされている日本国民に、本当のことを知って欲しいという気持ちが強かったようです。
そこに発生した今回の尖閣列島事件。船長を解放した時の無念さと、その直後に行われた中共からの損害賠償請求という、いかにも中共的な厚かましさ。そして最後の「あのビデオは国会議員だけに見せて一般公開はしない」という日本政府の決定。ここで彼はインターネットによる公開に踏み切る決心をしたということでした。
公開後、その翌日になってテレビが大騒ぎになっていることを知り、インターネットの情報拡散効果がいかにすごいかを知ったとか。
そしてすぐに名乗り出なかった理由として、このビデオができるだけ多くの国民に見られるように時間を稼ぎたかったからだとのこと。より多くの日本国民に尖閣列島付近でなにが起きているのか本当のことを知って、その上で国民の方々に考えて欲しかったということです。
テレビ局が繰り返し放映していることと、ダウンロードされ、他のサーバでも公開され始めたことを知って、翌日の夜、自分のサイトからは降ろしたということも書かれていました。
その後、操作の手が漫画喫茶までに絞られてきたので、自分がやったことを船長経由で当局に告げたとのこと。拘留の身になって、その厳しい取調べを受けて感じたことなど、そして支えてくれた家族、同僚、そのほか大勢の支援してくれた方々に対する感謝が綴られています。
そして最後に、日本国民である読者に対して、政府批判をするだけではこの国は立ち直らないこと、勇気を持って行動に移して欲しいことなど、彼の希望が述べられていました。
淡々と綴られる文章、そしてその内容から、江戸時代のサムライの忠義感の葛藤を見る思いでした。
あきらかに下される命令が公務員の本分と違う時、その命令に背いても大儀に殉じる覚悟のありようが伝わってくる本、それが私の読後感です。
ぜひ一読をお勧めいたします。
0 件のコメント:
コメントを投稿